1月はNetflixで呪術廻戦を橋のたもとで戦うところまで観て、本ではカズオ・イシグロの 『わたしを離さないで 』を読んだ。
呪術廻戦はずっと前から流行っていたのに脳キャパが足りないと謎論理で観て来なかったので、絵を描いてない期間に観れてよかった。今時の不快感が少ない登場人物が多く、思わず令和…とつぶやいてしまった。『わたしを~』の方はもう少しマイナーな 『日の名残り 』を完読できず断念したので有名な作品をセレクトしてみた。相変わらず頭に入りにくい部分は斜め読みがちになったがどうにか完読!!加齢による集中力不足とツイッター依存をとても、とても感じる。
ふたつ共ティーンエイジャーがたくさん登場する物語である。困難と宿命がテーマと言えば共通項があるように見えるが架空の臓器提供被検体が主題の『わたしを~』の方がより若人を制限、抑制、搾取している感が強い。ただ呪術廻戦もネタバレでここから先は人がいっぱい死ぬと聞いているのでなんとも言えないが…。
で、心に残った人物が出てきたので書き連ねていこうと思う。
伏黒 恵とルースである。
伏黒を知らない方はささっとウィキを見てもらえるとありがたい。
彼は呪術高専の学生で、呪霊という敵と戦うのだがまあ考え方が「今」の人なのだ。外見や喋り方は昔から少年漫画に出てくる「主人公と対をなすクール系二枚目」といった風で斜に構えたことばかり言って厭世観とか語り出したらどうしよう…とか思っていたら全然そんな事はなかった。むしろ出来るだけ自分の気持ちに嘘をつかないよう努力をしていてめちゃくちゃ(ああ、古語を使っている)感じのよい男キャラでびっくりした。
まず主人公の虎杖(いたどりと読む)は誤って、人類を滅亡させるような凶悪な呪霊の指を飲み込んでしまう。1話にして呪術師である伏黒は立場上虎杖を捕縛・殺害しなければならない状況に立たされる。しかし伏黒は自分の良心に則って虎杖を殺めたくないと、お目付役の先生に表明する。
そして数日後、この判断が裏目に出て伏黒は虎杖の体内に巣食う呪霊と戦う事になり重症を負うことになるが、その戦闘の際にもはじめて虎杖と対峙した際に殺していればよかったか?と自問自答している。
が、答えはやはり良心のままに虎杖を助けた方がたとえ虎杖内の呪霊に自身が殺されたとしても後悔しないだろうとスルっと答えが短時間で出てしまうのだ。
これ、さりげなくすごい事だと思う。
10年前の少年漫画だったらクール系キャラは最終回間際とか、下手したら答えを出すところまで辿りつかず何も向き合えないまま格好つけて幕を閉じていた気がする。
思考に無駄がなくて、最終的に「道義の上では悪だけど自分に嘘をつかない方が後悔しない」と虎杖を殺さなくてよかったという答えに至ったている。こういう黒髪キャラにくっついてきがちなニヒルさやまわりくどさが無い。昔の漫画には無いスピード感がとってもよくて、流行りのアニメ観てよかったな〜と素直に思った。
これから大分あんぽんたんな父親も出てくるらしいし、2月も続きを観る予定デス。
『わたしを離さないで』はかなり有名な本なのに1回も読んだことがなく初見だった。
本は飽きやすく読み切れるかな〜と不安だったがどうにか斜め読みも含めて読了!
ここでも主人公ではなくサブキャラのルース(女性である)が印象的だった。
この子は、臓器提供のために産まれた子ども達が育てられる寄宿舎で生活をしているのだがまあ虚言癖が酷い。妄想に他人を巻き込むのが常なのだ。
たとえば幼年クラスの際は主人公に「馬に乗ったことはある?わたしはあるわよ」みたいに声をかけたりする。主人公キャシーも、彼女も乗馬の授業は受けたことが無いがキャシーはあえてルースの話を肯定してこの後二人はお馬さんごっこを通じて仲良くなる。
その後も複数人を巻き込んで特定のお気にの教師が誰それに誘拐されるから阻止しようなどと毎日計画を立てたり尾行をしたりと空想癖が止まらない。
幼年ならまだこれ位のこと現実にもあったよね…まだ許せるかな〜と読み進めていたら、成長するにつれコイツ仲間外れもシカトもするようになっていく。キャシーに対しても
ルース、ルース、読者側はもうお前を擁護できねぇよ。
卒業間際もこんな感じで妄想ワールドが全開なので、キャシーが無条件にルースが好きという設定がなければこんなに印象に残らなかったかもしれない。やなやつだったので。
この寄宿舎、というか学校には生徒が自作した絵や詩、立体物は品評会に出して生徒同士で物々交換ができ、優秀作品には学校内の通貨と交換ができるというローカルルールがある。そしてもうひとつ謎ルールがあり「マダム」と呼ばれる部外者が品評会の最優秀作品を持ち出すことが可能で、彼女は外部でギャラリーを催しているのだ。
マダムの素性は生徒たちには明かされず、後編のキーパーソンとして出てくる。
この臓器提供者のこども達は一応少しだけ進路を選べる。適性があれば提供後ボロボロになった患者の介護人(ソーシャルワーカーやケアマネに近い意味。実際の体を触る身体介護の描写は無いのでそれは病院が担っているようだ)になって過酷な労働に立ち向かうか、他人のサポートや長時間の運転に向かない者は通達によって臓器提供をしながら病院風の施設に住まう。
もう一人の登場人物トミーは好人物だが介護人の適性がなく成人後提供者として過ごすようになり、キャシーは介護人向きだったため毎日仕事漬けな日々を過ごす。
ルースは提供者となる。
なんとなくそんな感じはしてたぞ。本人の夢はオフィスレディだったが基本的に提供者たちの成人後の進路は上記の二つしかないので、それは叶わなかった。
この本では医療行為の詳細は省かれているので、臓器提供の詳細は分からないのだが全身麻酔をかけて内臓を失うのであろうルースやトミーもだんだんと衰弱していく。
しかしひょんな事から成人後この三人で会することができ、ルースが意外なことを申し出たのだ。
「わたし、マダムの住所知ってるわ。探したの。ふたりともわたしが死んだ後ここに行って恋人だと証明してきなさいよ」
原文ムシであるが大体こんな旨を語るからまた虚言か!?と思ってしまう。日頃の行いが祟るルース。
補足すると、マダムには昔から一部の生徒から「絵や創作物は生徒の将来の心理分析のためにしようするため収集している。生徒同士が成人後恋仲になる際の証明に使われ、真の恋仲だと立証できた場合特例により臓器提供期間が引き延ばされる」という噂の人物であり、恋仲の証明もマダムが行うであろうと言い伝えられていたのである。
トミーはもう介護人にはなれない。ルースは昔トミーと付き合っていたがもう手術の侵襲のせいで余命も無い。
三人の中で一番でたらめが好きで自分にも周囲にも嘘をつきまくっていた奴が、弱った体で希望を他人に託そうと、他人の住居を調べるために無茶苦茶に行動していたのである。
同級のふたりが長生きできますようにと。虚偽の恋人同士になればいいと。
ルース、ルース、擁護はできないけどお前成長したなあ。
結果、マダムはそんな心理分析用に絵を収集していたわけでは無いと判明するのだが、ルースががんばらなければキャシー達は真実にも辿りつけなかった。
諦念はよくないと死に際に友人へ示すことができて、よかったねえ。ともすると諦念エンドレスな境遇だしな…。
伏黒とルース、嘘を巡って対象的なキャラに出会えた1月でした。